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【緊急寄稿】厳しさを増す、私大の学生募集 -恵泉女学園大学の学生募集停止が起きた背景とは?ー

定員割れ大学が急増中の私大学生募集について考察する

  • 大学・短期大学進学 2023年 03月24日

2023年3月22日に恵泉女学園大学(東京都)が2024年度以降の学生募集を停止し、事実上の廃校となることが先方WEBサイト等で公表された。ここ数年、急速に厳しさを増している私立大学を取り巻く現状について解説していきたい。

業界に衝撃を与えた、恵泉女学園大学の学生募集停止

2023年度大学入試もほぼ終了した3月22日、東京多摩地区の恵泉女学園大学が2024年度以降の学生募集を停止するという情報が発表された。今年4月に迎え入れる新入生が最後の入学者となる。東京の私大が事実上の廃校となるインパクトは大きく、瞬く間に業界関係者にも知れ渡った。

 

恵泉女学園大学は園芸に関する社会園芸学科の特徴ある教育や国際教育にも定評があり、教員の面倒見も良い大学として決して評判の悪い大学ではなかったが、これ以上の運営は困難という判断を理事会が下さざるを得ないほど、学生募集に苦戦していたということになる。この背景について少し考えていきたい。

 

入学定員厳格化バブルが終わり、中小規模私大の苦戦が続く

私が昨年12月に書いた【2023年度私大入試を予測する】でも触れているが、私立大学の学生募集に関する情勢はこの5年ほどで激変している。

日本私学共済事業団がまとめている「私立大学・短期大学等入学志願動向」から引用した私立大学の定員割れ状況をまとめた図をご覧いただきたい。

まず、2016年からスタートした私立大学の入学定員管理の厳格化(定員厳格化)により、大規模私大が入学者数・合格者数を絞り込まざるを得ない状況となった影響から、2017年~20年の4年間は大規模校に入れなかった受験生が大量に中小規模校に流れてきており、特に都心部の中小規模大学が軒並み志願者増となる「定員厳格化バブル」といえる状況が起きていた。

実際この時期、定員割れの大学の数は2016年の257校から2020年は184校まで減っている。つまり2017~2020年頃には定員厳格化で狭き門となった大規模校に入れない受験生が大量に発生し、その受け皿となった中小規模校の学生募集状況が大きく好転したため定員割れ大学の数が減ったのである。この時期には、今回募集停止となった恵泉女学園大学も一般選抜の志願者数を増やしている。

しかし、2021年・22年を見ると一気に定員割れ大学が増えており、22年は2016年よりも多い284校が定員割れの憂き目を見ている。これは総合型選抜や指定校推薦(学校推薦型選抜)で年内の学生募集を強化する大学が増えたことや、大規模校が追加合格等を用いて一般選抜の合格者数をかなり増やした影響で、一部の難関大学を除いて以前よりも合格チャンスが増え、中小規模校に流れる受験生が少なくなったことが推察される。

一定の知名度がある中規模校は、大規模校の併願先として選ばれる可能性があるが、知名度の低い小規模校にまでは受験生が回ってこなくなってしまったのだ。なかでも女子大は、この2年で急激に志願者数を減らす大学が多かった。18才人口の増加が期待できない今後もこの状況が続きそうなのである。

このような厳しい現状のうえに、収容定員充足率50%を切った私大に対して助成金を不交付とする文科省の方針が追い打ちとなり、これからの挽回は難しいとみて早めの決断を下したということなのだろう。

 

立地・知名度・学部学科編成が今後の明暗を分ける?!

では、これからの私大経営を考えた時に「生き残る大学」の条件とは何か?

知名度が高く・利便性の高い都心にキャンパスがあり・時代のニーズに沿った魅力的な学部学科があり(理工系なら研究力が強いこと)・国家試験合格実績や有名企業等に豊富な就職実績を誇る大学。だろうか。

書くのは簡単だが、これらの要素を兼ね備えた大学=ほぼ、都心の難関私大となるので入れる受験生の数も限られるだろう。

言い換えれば、今後の生き残りが厳しい大学とは、知名度が低く・立地条件が悪く・学部学科編成が旧態依然としており・就職実績に特筆すべき魅力がない大学となるのかもしれない。

何か1つ以上、光るものがある(と自負する)大学であるならば、徹底的にその魅力をブラッシュアップしてその事実を言語化し、対面広報などで確実に近隣のファンとなってくれそうな高校現場に伝え続けていくことだ。

規模が小さい大学は学生定員数も少ないので、地道に近隣を中心に広報活動をすることで活路を見いだせる。更に学生の取り組みなどをSNSを使って丁寧に発信していけば遠近を問わず、教育方針に賛同する熱心な受験生に見つけてもらえるかもしれない。

女子大でも更に2極化が進む!?

私は女子大の教育力の高さや面倒見の良さには大きな価値があると思うので、今回のニュースを残念に思う。複数の女子大の取材でお会いした教員は総じて面倒見がよく、伝統校ほど小人数教育を地道にしっかり実施しており、就職実績もとてもよい大学が多かった。

ただ、女子大の志願者状況を細かく見ていると、堅実な募集状況の女子大は都心にキャンパスがあり(郊外のキャンパスを引き払い、都心に集結させる施策を実施など)、従来の語学や文学系の学部だけでなく、ビジネスやグローバル(近年は建築系の新設を行った大学もある)など、実学的かつトレンドに呼応した学部改組を行い、かつ、就職支援体制や実績を積極的に発信する大学であるように思われる。

苦戦している女子大は立地条件があまりよくなく、学部学科に大きな改組をしていない、素晴らしい就職実績なのにそれをあまり広報していない(奥ゆかしくて個人的には好きな姿勢だが、知ってもらわないことにはファンが増えない)、高校現場に出向いて広報する機会が少ないように感じる(入試関連スタッフが少ないという事情もあることは理解しつつ)。などの要因が考えられる。

女子大に限らず、小規模な大学のなかには学生本位で面倒見が良い大学がたくさんある。しかし、その魅力を正しく高校に伝えることが大切だ。少子化で受験生が大学を「選ぶ」時代が来てしまったことを受け入れて、今できることは何か?を考えることから始めてみてはいかがだろうか。

 

SINRO! 編集長 河村卓朗

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