東京農業大学アグリビジネス学科が展開する国内外での研修で、学生はどう成長するのか?
深刻な米不足に悩まされ、食料安全保障や農家の高齢化などがいっそう注目を集める現在。東京農業大学は「総合農学」という視点からこうした地球課題の解決に挑んでいる。
そのなかで経営学のアプローチから農業を捉えるのが、国際食料情報学部アグリビジネス学科だ。
食料が消費者へ届く過程で登場する経営の重要性やその多様な進路について、教員の皆さんに話を伺った。
聞き手・構成 河村卓朗(SINRO!編集長)
鈴村 本学科では農林水産業・食料関連産業を「アグリビジネス」と捉え、経営学的な視点からの専門的知識と実践力を身につけていきます。
「食品を売る」という経済行為において、今や“高品質”であることは当たり前になっています。安心・安全の高い水準をクリアし、差別化が難しいなかで、農業経営者は販売を通じて農作物の価値を伝えていく方法を考えなければいけません。そのために必要なマーケティングやデータサイエンスの理論を教えています。
犬田 本学科は座学だけでなく実体験の学びを重視しているのが特徴です。
東京農大ならではの現場体験をできるのが、2年次の選択必修科目である「アグリビジネス実地研修」。これは国内外の農場や企業で10日〜2週間の研修を行うもので、海外ではフィリピンとインドネシアが実習先です。学生は2年次の4〜7月の事前学習を経て参加します。
井形 実地研修では研修地の農業経営者とともに多様なプログラムを体験しながら、農業の実情や課題に触れます。例えば、学生がトウモロコシの出荷作業中に、廃棄量の多さに気づいたとします。そこに課題を発見し、廃棄予定の農産物を活用して商品開発に取り組もうと計画する。
しかしそれを実現することは簡単なことではありません。生産者や加工業者と交渉し、どのような商品をつくり、原価をいくらに設定するか、パッケージはどうするか、といった現実的な課題が次々と出てきます。
商品開発に挑戦したい学生は多くいますが、実地研修では農家さんとコラボして商品化の実現に結びつけることができるのが魅力の一つだと思います。
犬田 そして、実習先のほとんどは本学卒業生が経営する企業や農園です。充実した東京農大のネットワークが強みでもあります。
3年次以降もゼミでは、国内はもとより、韓国やニュージーランドなど海外の研修を用意しているゼミが多く、「現場を見て学ぶ」機会の豊富さがアグリビジネス学科の魅力です。
鈴村 3年次必修科目の「アグリビジネス組織論」や私が所属する経営組織研究室では、ビジネスの持続的成長に関わる経営組織のマネジメントについて扱っています。
ご存知のとおり、農林水産業の最大の課題は、就業人口の減少にあります。これを改善するために、人材をどのように定着させ、未来を担う世代がどう気持ちよく働けるかを考え、実践していく必要があります。
授業では行動科学や心理学などを交えながら、リーダーシップ論や人材育成について多角的に教えています。
犬田 これまでは農業経営体は生産に特化し、流通や販売は別の企業・団体に委託することが多かったと思います。
しかし、加工や流通、販売までの「6次産業化」に取組む農業経営体の増加に伴い、商品企画やマーケティング、マネジメントといった知識が求められてきているのが現状です。データサイエンスやAIなどの情報処理技術も現場に普及しつつあるなかで、本学科でも幅広い専門知識を修得してもらっています。
鈴村 経営者の視点に立ち、農業と食に関するビジネス全般を学ぶ本学科の卒業生は、農業・食品ビジネスにおける“川上”から“川下”まで、幅広い分野で活躍しています。食に関連する業界が特に多く、メーカーをはじめ、商社、スーパー、コンビニなどの流通業界も含まれます。
犬田 また、意外だと思われるところでは地域に根ざした信用金庫や地方銀行などの金融業界へ就職する人もいます。地域金融機関にとって地域課題の解決というのは至上命題であり、農業経営体のなかにも地方銀行などから融資を受ける事例が増えてきています。そうしたなかで、農業の知識や現場の課題がわかり、金融機関職員として翻訳できる人材が強く求められてきているのです。

鈴村 本学科は農学ジャンルの中でも特に文系の受験生と相性がよいと思います。一般選抜においては、1教科目は指定科目の「英語」、2教科目は選択Ⅰとして「国語」「数学」から選択。そして、3教科目は選択Ⅱとして「理科」「地理、歴史、公民」にあたる分野から1教科を選択します。選択次第では「英・国・社」の文系3科目でも受験可能。実際に半分ほどの学生が文系科目で受験しています。
面接を行う年内入試については、探究心が強く行動的なタイプに向いていると思います。
=英語、国語、地理・公民・世界史・日本史で受験可能!
※東京農業大学ではアグリビジネス学科を含む4学部12学科で文系科目での受験が可能
井形 農業や食品産業の分野では、過疎化や後継者不足、食品ロスや資源循環といったさまざまな課題が挙げられています。
アグリビジネス学科で学ぶということは、社会や産業の構造を知り、課題解決の方法をしっかり探究するということでもあります。ここで得たスキルは、農業や食品産業のみならず多くの業界で応用が利くはずです。社会課題や経営学に興味がある人にも、ぜひ受験していただきたいですね。
東京農業大学 国際食料情報学部 アグリビジネス学科
学科長 鈴村 源太郎 教授、犬田 剛 准教授、井形 雅代 准教授
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