「工・農・芸」が融合する共創の教育とは?—STEAM教育の先を目指す玉川大学工学部の挑戦
「全人教育」を教育理念として掲げ、手厚い指導で知られる玉川大学で、革新的な教育プログラムが注目を集めている。
キーワードは「ESTEAM教育」。テクノロジー、数学、アート、国際性などを融合した学際的かつ創造的な学びを展開しているという。
工学部でESTEAM教育を主導する相原威工学部長に話を聞いた。
(聞き手・構成 河村卓朗)
玉川大学工学部では、実践を重視した多様性から生まれる「共創」の教育を目標として、幅広い研究テーマに取り組んでいます。根底にあるのは、玉川大学全体で推し進める「ESTEAM教育」です。
これは、近年アメリカで導入され注目を集めているSTEAM教育をベースにしています。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字STEMにArts(芸術・文化)の視点を加えたもので、IT社会やグローバル化に適応した国際競争力を持った人材を育成するための教育モデルとして知られています。
玉川大学では、小原芳明学長の提唱で、これに外国語教育の特色であるELF(共通語としての英語)を加えて、ESTEAM教育としました。工学の技術に加え、数学、人の感性にかかわるアート、国際性など幅広い要素が入ったこの教育モデルを用いて、多様な価値観が融合することで、まったく新しい価値観を生み出し、イノベーションによって社会に貢献できる人材の育成を目指しています。
工学部は、まさにESTEAM教育を強力に推進する学びの場といえるでしょう。
玉川大学工学部は、最先端の科学と技術に触れられる4学科+1プログラムで構成されています。
まず、情報通信工学科では、話題のAI(人工知能)やICT(情報通信技術)を徹底的に学ぶことができます。データサイエンスやクラウドコンピューティングの知識もここで身につけることができます。
次に、エンジニアリングデザイン学科では、デジタル時代のデザインやものづくりを融合しながら実践的に学べます。
マネジメントサイエンス学科は、ITを駆使して企業経営や管理を行うデータマネジメントを専門的に学べる貴重な学科です。
最後にソフトウェアサイエンス学科では、モバイルアプリやゲームコンテンツの開発に挑戦できます。ここでITセキュリティの先進的な知識も身につけられます。
これらに加え、数学教員を目指す学生のための「数学教員養成プログラム」も用意しています。
ESTEAM教育は、全学的なものですが、まずは「ものづくり」という共通項を持つ工学部、農学部、芸術学部の3学部の融合を目指した数々の試みを展開しています。そのひとつが、「工・農・芸融合価値創出プロジェクト授業」です。
これは、2019年度にスタートしたPBL(課題解決型)授業で、工学部、農学部、芸術学部の学生がそれぞれの専門知識を活かしながらチームで協働し、「玉川大学の未来」に関する課題に取り組む革新的な授業です。例えば、学生たちは「玉川大学の新しい価値発信に貢献する新食堂を提案せよ!」といった課題に挑戦します。
ここで重要なのは、分業ではなく融合です。工学部生がロボットを開発し、芸術学部生がデザインするという旧来の発想では意味がありません。例えば工学部生と農学部生が協働するならば、「ドローンを使った森林プランテーション」や「オフィスビルの中に田んぼをつくる垂直農業」のような社会の構造を変える共創的発想を期待したいのです。
STREAM Hall 2019は、「工・農・芸」3学部の学びを融合した共創の教育を展開するために2020年春に新設されました。ここには、学部にかかわらず人が集えるオープンスペースが数多く設けられています。こうした空間を利用して、学生たちは学部を超えた共同プロジェクトやイベントを積極的に開催することができます。
1階にはメーカーズフロアがあり、パソコンや3Dプリンターのほか、各種工作機械がそろっていて、学生たちは「デザイン思考」に基づいた自由なものづくりに挑戦できます。
こうした複合的な学びのカタチを「STREAM Styleの教育」と呼んでいます。このオープンイノベーションの場は、各学部から集う学生たちの多様性から生まれる共創の場を提供します。ここから学生発の新たなビジネスモデルが生まれることを信じています。
ひとことで言えば、真の意味で人と社会のために役立てる人材です。テクノロジーは、あくまでも人間を幸福にするためのツールに過ぎません。玉川大学工学部で次世代のものづくりや異分野と出会うことで、テクノロジーを用いて社会全体を変えていくような発想力を身につけてほしい。
この学際的な共創の教育の場で、一人ひとりの感性を磨き、人間重視のイノベーションを生み出せる人材を育てたいと思っています。
らせん状の大階段の周りに教室や研究室を配置。
互いの活動を可視化することでさらなる刺激と交流を促す。